日本医療福祉生活協同組合連合会
代表理事会長理事 髙橋 淳
現在、感染症法の改正が検討されています。報道によりますと、「新型コロナ感染症の患者・感染者が入院措置に反対したり、積極的疫学調査・検査を拒否したりした場合などには刑事罰や罰則を科す」とされています。また、医療機関へのコロナ診療の「協力要請」を「勧告」に変更し、「正当な理由なく従わない場合は病院名を公表できる」規定を新設するとも言われています。
現行の感染症法の基本理念は、「過去にハンセン病、後天的免疫不全症候群(エイズ)等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である。」との認識に基づいており、歴史的反省のうえに成立した経緯があります。また、過去に感染症対策で強制的な措置を実施した多くの国の経験からも、公衆衛生の実践上もデメリットが大きいことが確認されています。入院措置を拒否する感染者の側にも家庭環境や経済的事情、周囲からの偏見・差別などの理由があることも考えられます。
また、医療機関へのコロナ患者受け入れ勧告に関しても、地域の医療提供体制やそれぞれの医療機関の人員体制や設備、得意分野や患者層など地域で果たしている役割はまちまちであり、新型コロナ患者を受け入れないことだけを問題にすることは、今回の重大なコロナ禍にあって、地域の中で連携して対処すべき医療機関や医療従事者を分断することにもつながりかねません。現に新型コロナ感染症の患者・感染者、あるいはその治療に当たる医療従事者への偏見・差別があることも報道されています。
罰則を伴う強制は、国民に恐怖や不安・差別を引き起こすことにもつながり、感染症対策に不可欠な国民の主体的で積極的な参加と協力を著しく妨げる恐れがあります。刑事罰・罰則が科されることになると、それを恐れるあまり検査を受けない、あるいは検査結果を隠ぺいする可能性もあり、感染の抑止が困難になることにつながると考えます。
私たち医療福祉生協連は、罰金や罰則を科す感染症法の法改正には反対であり、慎重な審議を求めます。
以上