医療福祉生協の2030年ビジョン
第1章 はじめに
第1節 2030年ビジョンと医療福祉生協の理念
私たち医療福祉生協は「健康をつくる。平和をつくる。いのち輝く社会をつくる。」という理念を掲げ、いのちとくらしを守り、健康をはぐくむ事業と活動を広げてきました。全国の医療福祉生協が発展していくための羅針盤として2014年に「医療福祉生協の2020年ビジョン(以下、2020年ビジョン)」を策定し、団塊の世代が75歳以上を迎える2025年を見すえて、切れ目のない「医療福祉生協の地域包括ケア」を実現するための事業と活動のありたい姿を描きました。
2030年ビジョンでは、「憲法25条(生存権)や9条(平和主義)、13条(幸福追求権)が活きる社会の実現」をめざすことを掲げた医療福祉生協の理念に照らし、2020年ビジョンのもとですすめてきた事業と運動を継続します。さらに医療と福祉の協同組合として、格差と孤立によって生じるさまざまな課題や、くらしの「困った」の解決にとりくみます。すべての人々が健康で居心地よくくらせるまちづくり、健康づくりの活動に積極的に参加します。国連が2030年までに達成すべき全世界の共通目標として示した「SDGs(持続可能な開発目標)」にとりくみ、多様性があり包摂的な「誰一人取り残さない」社会の実現をさまざまな組織・団体・個人との協同でめざします。
2030年以降に予測される高齢化や人口の推移、くらしの変化なども想定しながら、私たちが10年後にありたい姿をまとめています。
第2節 医療福祉生協の2020年ビジョン
私たちは2014年に地域や事業環境の変化をふまえ、「医療福祉生協の2020年ビジョン~協同の力で、いのち輝く社会をつくる~」として4つの分野(①事業②まちづくり③組織④社会的な役割)でのありたい姿と、そこに向かう6つのみちすじを定めました。2020年ビジョンで掲げた「4つの分野でのありたい姿」と「その達成状況」を示します。
<4つの分野でのありたい姿>
- 医療福祉生協は、くらしを支える医療・介護・福祉の重要な担い手として成長し、地域から信頼される存在になっています。
- 医療福祉生協は、要求をもとに地域の人々とつながって、すべての世代の“誰もが生き生き”“笑顔で長寿”のまちづくりの推進役となっています。
- すべての都道府県に医療福祉生協が誕生し、それぞれの地域で、組合員比率を高める目標を達成しています。
- 医療福祉生協は、誰もが健康で平和にくらせる社会の実現に向けて、幅広い人々との連帯・連携の輪を広げています。
<ビジョンを実現するためのみちすじ>
- 総合的で切れ目のない事業の拡大
- いのちとくらしの相談機能の強化
- 幅広い住民層の要求にこたえて組織を広げる多様性の重視
- ネットワーク形成の重視
- ひとづくりを通じた持続的な事業拡大
- 社会的な政策提言力の強化
第3節 2020年ビジョンのふりかえり
- 医療福祉生協は、くらしを支える医療・介護・福祉の重要な担い手として成長し、地域から信頼される存在になっています。
- 組合員ニーズと地域課題にもとづき、病床機能の転換や在宅支援事業など医療・介護・福祉を一体的にとりくむ事業が拡大しました。
- 自治体や地域の様々な団体との連携がすすみ、協議体への参加や介護予防・日常生活支援総合事業が広がりました。
- 地域や職場で、ともに組合員として「医療福祉生協のいのちの章典」※1 を実践する人づくりにとりくみました。
【評価の指標】①(2013年度→2019年度)
・総事業高 3176億円→3516億円
・介護予防・日常生活支援総合事業受託生協33生協(2016年度~)→69生協
・地域密着型サービス事業数 117事業所→211事業所
・職員数 3万5894名→4万539名
・介護福祉士実務者研修 1008名が修了(2016年度~) - 医療福祉生協は、要求をもとに地域の人々とつながって、すべての世代の“誰もが生き生き”“笑顔で長寿”のまちづくりの推進役となっています。
- 「医療福祉生協の地域包括ケア」の実現をめざし、3つのつくろうチャレンジ(つながりマップ・居場所・日常生活圏域の支部づくり)をすすめました。
- 助け合い活動や多世代型の居場所、くらしの相談センターなど「わたしと地域の困った」解決のとりくみが広がりました。
- フレイル予防・オーラルフレイル予防など楽しい健康づくり活動をすすめ、班会やサロンなど身近なつながりづくりにとりくみました。
- 健康チャレンジは、子どもや若い世代にとりくみを広げ3倍以上に増加しました。
※ 1 医療福祉生協のいのちの章典
日本国憲法のもと人権が尊重される社会と社会保障の充実をめざし、地域住民と職員がともに組合員としていのちとくらしを守り健康をはぐくむための権利と責任を定めるため、2013年に策定した。
【評価の指標】②(2013年度→2019年度)
・支部数 2455支部→2735支部
・支部運営委員数 1万6403人→1万9344人
・居場所(サロン)数 581か所→1242か所
・健康チャレンジ参加人数 全国3万9164人→15万9048人
※キッズ・チャレンジ 1万5360人→4万3344人(2015年度~)
・くらし助け合いの会 53→81(有償・無償あわせ2016年度~) - すべての都道府県に医療福祉生協が誕生し、それぞれの地域で、組合員比率を高める目標を達成しています。
- 医療福祉生協連に加入する生協のある都道府県は、41から42となりました。
- 組合員ふやしこそすべての活動に共通する柱と位置づけ、生協組織の拡大をすすめました。生協への加入は「くらし安心のネットワークに入ること」の呼びかけで、地域の様々なつながりを広げ、組合員数は300万人に到達しました。
【評価の指標】③(2013年度→2019年度)
・医療福祉生協連加入生協都道府県数 41→42
・組合員の対人口比率 2.24%→2.36%
・組合員数 283万757人→296万9387人
・支部運営委員数 1万6403人→1万9344人
・機関紙手配り配付者数 10万4574人→10万361人
- 医療福祉生協は、誰もが健康で平和にくらせる社会の実現に向けて、幅広い人々との連帯・連携の輪を広げています。
- 協同組合間協同を積極的に推進し、健康づくり・子育て支援・災害支援など多くの実践が生まれ、幅広い人々と連携の輪を広げました。
- 憲法と平和を守る運動と社会保障の拡充を求めるとりくみを、諸団体とともにすすめました。
- 世界の保健・医療・社会サービスを行う協同組合との連帯を深めました。
【評価の指標】④(2013年度→2019年度)
・自治体協定の締結生協数 19生協→44生協
・健康チャレンジに自治体・他団体ととりくんだ生協数 41→64生協
・3000万人署名集約数 117万3283筆(2017年度~)
・ヒバクシャ国際署名集約数 56万2025筆(2016年度~)
・日本HPHネットワーク※2 加盟事業所数 36か所(2015年度~)
・海外からの視察受入数 延べ22件
※2 HPH(Health Promoting Hospitals &Health Services)ネットワーク
HPHとは健康増進活動の拠点として患者、医療スタッフ、地域住民すべてに広く保健衛生活動を行い、積極的に健康をつくろうとする病院などのこと。日本HPHネットワークは2015年に発足。
第2章 2030年の社会をとらえる視点
1.多様な人々がくらしを支えあうまちをつくる視点
2.誰一人取り残されない公正な社会をつくる視点
3.平和で持続可能な世界をめざす視点
第3章 医療福祉生協の2030年ビジョン
第1節 2030年ビジョンのメインテーマと4つのありたい姿
<メインテーマ>
誰もが健康で居心地よくくらせるまちづくりへの挑戦
私たち医療福祉生協はこれまで「昨日よりも今日が、さらに明日がより一層意欲的に生きられる。そうしたことを可能にするため、自分を変え、社会に働きかける。みんなが協力しあって楽しく明るく積極的に生きる」という健康観にもとづき、医療・介護・健康づくりの事業と運動をすすめ、地域まるごと健康づくりをめざしてきました。
一方で人生100年時代を迎え、健康観も変化しつつあります。私たちは健康とは何かを見つめなおし、一人ひとりの生き方が大切にされ、誰もが居心地よくくらせるまちをつくります。そのようなまちづくりは、協同の力でこそ実現できることに確信をもってすすめていきます。
<4つのありたい姿>
- 地域に人と人のつながる場があり、人生を自分らしく生きるための健康づくり、まちづくりをすすめています。
- 地域に必要な事業を協同の力で創り出し、くらしの安心・満足を高めています。
- 地域の健康とくらしを支えるために「足腰の強い」経営を実現しています。組合員はつどい、学びあい、「医療福祉生協のいのちの章典」を実践しています。
- 互いを尊重し多様性を認め合う、平和で公正な社会をつくるため、積極的な役割をはたしています。
第2節 2030年ビジョン4つのありたい姿と実現にむけたみちすじ
<健康づくり・まちづくりのビジョン>
(1)地域に人と人のつながる場があり、人生を自分らしく生きるための健康づくり、まちづくりをすすめています。
【なぜめざすのか】
2030年にはほとんどの地域で人口が減り、地域差があるものの高齢化率は平均で3割を超える予想です。「いつまでも健康でくらし続けたい」「たとえ病気や障がいがあっても住み慣れたまちで過ごしたい」という願いは切実です。しかし、過疎化や高齢化によってコミュニティの機能が低下しています。また、貧困や孤立などにより健康格差が生じています。
このような情勢だからこそ、医療福祉生協が多様な要求を持つ人と地域でつくり上げてきたつながりをいっそう広げ、どのような困りごともみんなで考え、助け合い、支えあう安心のまちづくりが求められています。2020年ビジョンの実現のために積み重ねてきた「医療福祉生協の地域包括ケア」をさらに発展させていく必要があります。
【みちすじ】
- 「誰もが居心地よくくらせるまち」をつくっていくため「ゆるやかなつながり」を広げます。
- 「地域まるごと健康づくり」を発展させ、人と人がつながる場づくりをいっそうすすめます。
- 組合員と地域の人々が、協同して楽しい健康づくり、まちづくりにとりくみます。
- 子どものすこやかな成長を支援します。
- 誰のどのような困りごともみんなで考え、助け合う「おたがいさま」のまちづくりをすすめます。
- 様々な協同組合、地域の団体や自治体と連携してまちづくりを発展させます。
- 誰もが健康に関する情報を適切に利用できるよう、学び、行動します。
- 環境や防災など、いのちや健康にかかわる課題にとりくみます。
- 「健康とは何か」を考え、今日的な健康観をつくるとりくみをすすめます。
【どうすすめるのか】(アクション・イメージ)
- 楽しい健康チェックやフレイル予防のプログラムを開発します。
- 誰もが必要なときに駆け込める「なんでも相談所」や、地域の身近な相談機能をつくります。
- 「認知症カフェ」「ケアラーズカフェ」「男性介護者のつどい」など、介護者も参加できるとりくみを広げます。
- 健康づくりの活動で集めたデータを活用し、研究機関とも協力して発信します。
<医療・福祉事業の質向上のビジョン>
(2)地域に必要な事業を協同の力で創り出し、くらしの安心・満足を高めています。
【なぜめざすのか】
医療福祉生協の特徴は、地域住民と専門家がともに組合員として協同していることです。その結果、事業の質が向上し、健康づくりやまちづくりと連動したあらたな価値を創ることができます。
社会経済的格差の拡大などにより必要な医療・介護・福祉にアクセスできない人びとが増えています。この問題には、自治体や他団体、地域の企業等と連携してとりくむ必要があります。
【みちすじ】
- 「ともに組合員として医療福祉生協を担う住民と職員が、力をあわせて、質の高い医療・介護・福祉を実践します。
- 専門家と地域の組合員のかかわりで、自らの望むその人らしい生き方を実現します。
- 必要なときにアクセスできる医療・介護・福祉事業を協同の力でつくります。
- 安心してくらせる社会保障制度の充実と制度改善にとりくみます。
【どうすすめるのか】(アクション・イメージ)
- 医療福祉生協の事業が地域ではたす役割を明確にします。
- 総合診療・家庭医療をすすめ、生活を支える事業所をつくります。
- 医科・歯科・介護の連携を一層すすめ、オーラルフレイル予防や「口から食べる」にこだわる医療・介護を実践します。
- くらしを支える視点から組合員の協同で新たな事業の創出にチャレンジします(交通弱者への支援など)。
<経営・組織の発展と人材育成のビジョン>
(3)地域の健康とくらしを支えるために「足腰の強い」経営を実現しています。組合員はつどい、学びあい、「医療福祉生協のいのちの章典」を実践しています。
【なぜめざすのか】
医療福祉生協は、組合員の要求を事業で実現してゆく組織です。くらしを支える事業を継続し、新たに投資を行うためには剰余を出すことが重要です。いかなる環境のもとでも、協同組合の強みをいかし、より多くの人の参加によって「足腰の強い」経営基盤を構築していくことをめざします。
組合員活動の担い手づくりは、ビジョン達成の可能性を大きく左右します。組合員数・出資金額が減少する生協が増えています。あらゆる世代の方々が「やりたいことをできる範囲で」参加できる場をつくり、新たな「担い手」が生まれていくことをめざします。
職員組合員は働くことをとおして自己表現できるような職場で成長します。一人ひとりを尊重した職場づくりが必要です。
【みちすじ】
- それぞれの生協が継続的に発展するために必要な剰余を生み出します。
- 地域に出て、地域を知り、基本的人権を守る視点を持った人材を育成します。
- 班活動・支部活動をもとに楽しい組合員活動を展開し、組合員増・出資金増にむすびつけます。
- 多くの人がさまざまな形で参加できる場をふやします。
- 働きたくなる、働き続けたい、帰ってきたくなる職場をつくります。
- 医療福祉生協の理念に共感し、協同する医師をふやします。
【どうすすめるのか】(アクション・イメージ)
- 組合員へ必要な剰余を明らかにし、みんなの知恵を集めます。
- 経営課題への医療福祉生協連の相談・助言機能を高めます。
- 「心理的安全性」※3 が保たれるような職場、組合員活動をつくります。
- 一人ひとりの価値観を尊重した働きかたを実現します。
※3 心理的安全性
自分はここにいていい、自分は尊重されている、自分の存在意義がある、自分の気持ちや意見を自由にのべることができるという安心感。心理的安全性が担保された組織はより質の高いパフォーマンスを発揮するとされる。
<平和で公正な社会づくりのビジョン>
(4)互いを尊重し多様性を認め合う、平和で公正な社会をつくるため、積極的な役割をはたしています。
【なぜめざすのか】
すべての人にその人らしく豊かに生き、社会に参加する権利があります。それは、年齢および病気や障がいの有無・ジェンダー・社会経済的背景・国籍や人種にかかわらず侵すことはできないものです。2030年は今よりさらに社会文化的背景の異なる人びとが共存する社会です。これまで以上に違いを個性として尊重し合うことのできる社会が求められています。
グローバル化した市場原理主義※ は貧困と格差の拡大、環境破壊と気候変動を引き起こし、途上国に不公平な負担を強いるなど、ますます深刻な影響を与えています。そうした事態が、世界で起こる戦争や紛争にもつながっています。東アジアの緊張の高まりも無視できません。これらは遠い世界の出来事ではなく、私たちのくらしに直接影響しています。2020年初頭に世界を席巻した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)は、新興感染症がまたたく間に拡がるリスクを見せつけました。これからの世界のあり方が問われる中で「SDGs(持続可能な開発目標)」が世界共通の目標となり、その達成には、私たち一人ひとりのかかわりが必要な状況となっています。
国内では非正規雇用が拡大、賃金は上がらず国内消費は停滞したままです。社会保障への国庫負担は減少し、セーフティーネットが脆弱化しています。貧困の連鎖とこどもの貧困は深刻です。あいつぐ自然災害や迫りくる大地震への対応も不十分です。
私たち医療福祉生協がめざす誰もが健康にくらせる社会、いのち輝く社会は、「平和」と「公正」なくして実現できません。医療福祉生協は、個人から国家までのあらゆる暴力・武力紛争・戦争に反対します。人びとのくらしを守り、「公正な社会」※5 を実現するために力をあわせます。平和で多様性が尊重される社会の実現に貢献します。
【みちすじ】
- 多様性を尊重し、すべての人の人権を守るため、公正な社会の実現をめざします。
- 平和でいのち輝く持続可能な社会の実現に向けて、歴史に学び、ひろげ、連帯し行動します。
- あらゆる暴力・武力紛争・戦争に反対し連帯して行動します。
- 災害や感染症拡大などの非常事態に、正しい知識と行動で対応し、すべての人の人権が尊重される地域づくりをすすめます。
【どうすすめるのか】(アクション・イメージ)
- 健康を阻害する不公正に立ち向かいます。
- 沖縄県をはじめとする日本各地の米軍基地問題に、地域の人々のいのちとくらしを守る視点
から学び連帯し行動します。 - 核兵器の廃絶に向け、とりくみをすすめます。
- 原発ゼロをめざす運動にとりくみます。
※4 市場原理主義
低福祉低負担、自己責任を基本とし、市場を放任することで最大の繁栄を達成できるとする考えのこと。
※5 「公正な社会」
必要とする人に必要な資源や支援が行き届く社会を、私たちは「公正な社会」ととらえめざすものとして位置づけている。